なんというか……。ルサンチマンがキツい内容でした。
国民を階層化し、レッテル貼りをする嫉妬と悪意に満ちたその内容はあまり気持ちの良いものではありませんでした。
人間を単純化し過ぎじゃないかなあ。
それが悪役である篠田だけなら良かったのですが、主な登場人物のほとんどがそんな感じなので、「ああこれが作者の思想なんだろうなあ」とどうしても思ってしまいます。
こういう人の意識が公共事業悪玉論だとか族議員排除だとか、もっと言えば今のデフレ悪化を招いたんでしょうね。
特に人質が殺されたことについて「死んで当然の奴らだったが殺人は殺人だ」と刑事に言わせたことにドン引きしました。
いやいや……。まあ百歩譲って地上げなどの悪行をやっていた(様子の)事業家達は死んで当然としても、金持ちの放蕩娘だからって女子大生が殺されたことについてその言い草はどうなんだと。
やっぱりこれは不快だなあ。
もちろん、だいぶ昔の小説なので、今では大石先生も考えを改めているかもしれませんが。
しかしまあ、その世代でない自分にとっては、バブル真っ盛りの時代背景は中々新鮮でした。
一番面白くなかったのが篠田ですねやはり。
こいつはピカレスクでは無いですが、「信念のある格好良い悪役」のように主人公らから持ち上げられています。
しかし、自分からすると「しょうもない女に騙されたことをいつまでも根に持って、惨殺した挙げ句、その家族にまで陰湿な復讐をする女々しさを極めたようなチンピラ」にしか見えないんですよねえ。
こんなしょうもない、女の腐ったみたいな奴が敵という時点であまり気分が盛り上がらないのに、これが作中で贔屓されているとなるとどうにも不快感がついてまわります。
これで最後に死ねばまだ許せたんでしょうけど、生き残らせたのはさすがに納得がいきません。
作者が気に入ってるんでしょうねえ。おそらく続編のブルドッグシリーズで再登場するんでしょう。そう考えるとこのシリーズを読む気力が……。
まあ、この作品の前に読んだ『核物質(プルトニウム)護衛艦隊出撃す』の読後感が良かっただけに、失望したというのが正直な感想です。
「プルトニウム~」の方も余計なイデオロギーが入ってはいましたが、今作ほどではありませんでしたし、ここまで不快なものでは無かったですからねえ。
今回の感触だと、大石英司さんの作品は「ブルドッグ」シリーズではなく「サイレント・コア」シリーズから読もうと思ってます。
とはいえサイレント・コアシリーズが今は手元にないので、次は『原潜海峡を封鎖せよ』かなあ。