ネオ天草のジャンプ感想日記

ジャンプ感想を主に書いています。

映画『運び屋』感想

 特別に意外性のある展開もなく、劇的な山場も無いんだけど、それでもなお面白いという作品だった。
 安定のイーストウッド。100点満点で80点くらい。
スクリーンショット (482)
 ただ、予告編の「伝説の運び屋」って煽りは詐欺でしょ。
 伝説どころかペーペーの新米じゃん。

※以下、ネタバレ注意
 あんまり言うことも無いな!
 とにかく家族は大事だよ、という話だったので、「そうだね」としか。

 一番心に残ったのは、麻薬組織のメキシコ人達のキャラクターかなあ。
 いや、なんかここ何年かで見たアメリカ映画だと、麻薬組織のメキシコ人と言えば、人を殺すことを何とも思っていないケダモノに等しく、残虐非道の腐れ外道みたいな描かれ方ばかりだったから、人間味のあるメキシコ人達の描写が新鮮に感じてしまった。

 組織のボスが入れ替わって、アールを厳しく管理する為に新たに派遣された監視役も、一体どんな残酷な手段を使ってくるのかと思いきや、「でも、女房の葬式と言ってます」とアールの処刑に一生懸命反対するというね。
 優しいかよ、お前は。

 フリム(だっけ?)に対して、「組織はお前のことなんて何とも思っていない」という忠告までしていたのに、最終的に「メキシコ人のギャングは家族のことは重んじる」というイーストウッドの古いイメージが表出されたような内容だった(いや、私も麻薬組織のメキシコ人の実態なんて当然知る訳がないので、イーストウッドのメキシコ人像の方が正しい可能性はあるが)。

 ただまあ、人間臭いを通り越えて、もはやポンコツ麻薬組織と化してた感はあったかな。
 ボスを殺した直接の動機は、「麻薬取締局の捜査の手が迫っている」という危機感からだったはずなのに、それに対して全く何の対策も打たれていないのは、さすがに呆れてしまった。

 てっきりあの内通者が嬲り殺しに遭うんだろうなと思っていたのに、内通者に辿り着くことはおろか、アールの使う車も同じ、ルートもいつもと一緒とか、お前ら一体何に危機感を抱いていたんだ。
 アールの到着時間だけ管理して何になるというのか。

 その上、見張りを外したせいでアールに逃げられているわけで、前のボスの体制よりもむしろザルになってない?
 というか、渡したケータイ電話にGPS機能とか付いてなかったのかな。

 そんな事を深く考えるような映画ではないというか、別に麻薬カルテルの実態に迫ることが主題ではないから、気にする方が負けなんだろうけど。

 
 それにしても、グラン・トリノのときも感じたことだが、「俺は古い人間で口が悪いだけで、差別主義者ではないよ。その証拠にマイノリティにも気さくに接するよ!」みたいな言い訳がましい場面が多々あって笑ってしまった。
 めちゃくちゃ嘘臭いシーンである。


 ポリコレ的に言えば、「妻子に対してあんな酷い行為をしてきた男がちょっとすり寄っただけで許されるなんて、夫側に都合が良すぎる!」とか、「大量の麻薬の密輸に加担した男を美化するな! 彼が運んだ麻薬によって多くの依存症患者が生まれているんだぞ!」といった批判を本国でされてそうだな、とちょっと思った。

 たしかに、麻薬組織のボスの邸宅に招かれて豪遊するとか、普通に大悪党だもんな。
 麻薬の運び屋で手に入れた汚れた金を、孫娘の結婚式の二次会費用に充てるとか、娘も今度こそ完全に愛想をつかしそうなもんだけど、よく庇う気になったよね。
 絶縁されて当然でしょ、こんなの。

 まあ、その辺あんまり気にするような人でなければ、高得点を与えられる映画だったと思う。