ネオ天草のジャンプ感想日記

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童磨さんの人間性、憤怒、憎悪、嫉妬について【鬼滅の刃 19巻】

 童磨はけっこう普通の人間だったんだな、という話。

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【怒り】

 自称・感情が無い男の童磨さん。

 しかしながら、その言葉とは裏腹に、実のところ彼は感情を露わにする場面がいくつも見られた。

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 自分倒したカナヲちゃんや伊之助のことを「雑魚」と強い言葉で侮辱したこともその一つだが、もっとも分かり易い例はカナヲちゃんとの会話だろう。

 

 彼女からの罵倒に対し、童磨さんは笑みを消し、苛立ちを隠そうともしていなかった。

 彼は自身への侮辱に対しては怒りを抱く事が出来る人間だったのだ。

 要するに、童磨さんは「感情が希薄な人間」なのであって、「感情を持たない人間」ではなかったのである。

 

  「何も感じない」というカナヲちゃんの侮蔑によって、皮肉にもその見方が正確ではない事が明らかとなったわけだ。

 

【自己欺瞞】 

 更に、このやり取りには、童磨さんに単に感情があるだけに留まらず、世間一般の極めて常識的な価値観、感性すら持ち合わせていることが示唆されている。

 彼は「何の為に生まれてきたの?」とカナヲちゃんに挑発された際、何も答えられずに苛立ちを見せた。

 

 だが、童磨さんには「人間を食べてその人達と共に永遠に生きる」という大義があるはずだ。

 もしそれを本心から信じているのであれば、答えに窮するはずがない。

 

 つまり、彼は自身の掲げるその「大義」を、心の底では全く信じていないことになる。

 そもそも、人々を救う為と言いながら、明らかに標的が若い女性に偏っており、この時点で辻褄の合わない破綻した論理なのは明白だ。

 

 ここで重要なのは、「なぜ、彼はそのような嘘で自分を騙そうとしたのか?」という点である。

 

 童磨さんが本当に人の心を持ち合わせていないのであれば、このような誤魔化しなどする必要が無い。

 黙々と食事を摂ればいいだけだ。そうして人を殺しても「何も感じない」のだから。

 しかし、彼は辻褄の合わない大義を掲げ、自分自身の事すら騙そうとしてまで己の行為の正当化に努めた。

 

 これは即ち、童磨さんの中には罪の意識や、良心の呵責があったことを意味している。

 

【負い目】

 童磨がありもしない大義へと逃避するに至った最大の原因は当然、人殺しという行為そのものへの罪悪感だろう。

 だが私はこれに加えてもう一つ、彼が後ろめたさを感じていたものがあると睨んでいる。

 

 童磨は大変な偏食家だ。

 「女の方が栄養価が高い」とそれらしい理由を並べていたが、それならば他の鬼も好んで女ばかりを狙うはずなのに、実際には彼の他には沼鬼や堕姫くらいしか女に執着していた鬼は登場していない。

 つまり、彼ら2人と同様に童磨もまた、個人的な嗜好が影響して、女を食うことに拘っていると考えるべきだだろう。

 

 要するに、彼はしっかりと父親の血を受け継いでいるのだ。

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 極度の色狂い、セックス中毒者であり、その莫大な性欲を鬼となった今では食らうことで満たしている。

 

 それ故、女ばかりを好んで食らいながらも、「俺は万人を食らう事で、彼らを救済している」などと自分に嘘を吐いた。 

 己の劣情のままに信者の女に手を付けるという、見下していた父親と全く同じ行為をしている自分を認められずに。

 

【カナヲとの対比】

 そういう意味で童磨さんは、栗花落カナヲの対となるキャラクターでもあったのだろう。

 感情の希薄さによって、自分他の人々とは違い、感情を持っていないんだと思い込んでしまった人間。

 

 カナヲちゃんには蝶屋敷の家族が寄り添い、炭治郎という運命の人が現れたことで心が開かれた。

 一方の童磨さんの周囲にいたのは、色情狂の父親とヒステリックな母親、傅く信者達。

 そして、訪れたのは鬼舞辻無惨だった。

 

 童磨の心は永遠に閉ざされたのである。

 

【琴葉】

 思えば童磨さんが琴葉さんに執着していたのも、実母がヒステリー気味な性格だった事から、正反対の母親像を求めてたからだったのだろう。

 優しく、穏やかで、ひたむきに子供を愛する理想の母親。

 

 しかし、そんな幸せな生活も長くは続かず、信者の女達を貪り食っているところを見られて、琴葉さんに激しく罵られる羽目になる。

 そしてこれは皮肉にも、かつての両親の最期と似た構図だった。

 

 見下していた父親と同じような状況に追い込まれ、実母と違う母親を求めた琴葉さんから罵倒される。

 さぞや童磨のトラウマを刺激した事だろう。

 

【憎悪】

 童磨さんの琴葉に対する執着の程を窺わせる記述が、19巻の大正こしょこしょ話に書かれている。

 

 彼女を返すよう教団に要求してきた夫と姑を、童磨は殺害して山に捨てている。

 偽物とはいえ、「食べた人間と一体になって永遠を生きる」という大義を掲げているにも関わらず、である。

 

 後始末のやり方としても、教団の中で食べてしまえば山に行く必要もないし、後々死体が見つかって騒がれる恐れもない。

 だが、彼は頑なに2人の死体を山に捨てた。

 

 そこには強い拒絶と嫌悪、あるいは憎悪が滲んでいる。

 もしかしたら、夫に対して嫉妬すら抱いていたのかもしれない。

 

 少なくとも、これはとてもではないが「感情を持たぬ」人間の行動とは言えない。

 むしろ非常に感情的で、非合理的な選択である。

 

【もしも】

 上記の通り、童磨は本来は善悪の判断がつく、まともな感性の持ち主だったと思われる。

 そういう意味では、半天狗や玉壺のような生まれついての邪悪ではなく、普通の男だったと言えよう。

 

 ここまで強く執着した琴葉と、もしも、まだ人間だった頃に出会えていれば……。

 カナヲちゃんのように彼の感情も解放され、普通の人間として生きることができたかもしれない。

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