我々はサカさんのことをちゃんと理解していなかったのかもしれないと、十数年越しに考えを改めた。
【七武海制度擁護派だった】
第957話にて、赤犬ことサカズキ元帥が七武海の撤廃に反対だったことが明かされた。
これまでの彼の言動から、読者の中にはそれを意外に思う人間もいたようだ。
かく言う私もその一人で、第956話までは完全に赤犬はノリノリで七武海の討伐を命じたのだと考えていた。
「海賊という悪を許すな」「人間は正しくなけりゃ生きる価値なし」とまで言ってのける彼のイメージとは確かに相反する主張であり、「キャラがぶれてるのではないか」とまで言う読者までも現れたようだ。
ここでは、なぜサカズキ元帥が七武海制度廃止に反対したのか考えていきたい。
【丸くなった?】
まず一つ考えられるのは、「元帥となって考えを改めた」、あるいは「長期的には賛成だが現時点では反対」という可能性だろう。
何しろ今の海軍は忙し過ぎる。
・レヴェリーに出席した各国の王族を母国まで護送。
・革命軍侵入を受けてのマリージョアの警備強化。
・革命軍の追討。
・アラバスタ王国に関する大事件の解決。
あまりにも忙しくて、カイドウとビッグマムの同盟への対処にすら手が回らない状況だ。
世界政府側の戦力を削ることになる上に、討伐の為に海軍に余計な仕事を増やすことになる七武海制度の廃止など、元帥としてやりたい訳がない。
【大将時代から廃止に反対だった?】
もう一つの可能性として、「元帥に就任する前から元々廃止に反対だった」ということも考えられる。
赤犬は確かに正義の信奉者ではあるが、その正義とは「秩序」の重視に傾いている。
それもそのはずで、海賊という悪を殲滅する事を第一義としているのなら、海軍には所属せず、賞金稼ぎとして単独で行動しているはずだろう。
彼にとっての正義とはこの世界のバランスであり、海軍本部そのものなのだ。
それならば、七武海制度を肯定していることにも納得いく。
【実は慎重派】
赤犬は初登場時(回想だが)に、「歴史学者が紛れ込んでいる『かも』しれない」という理由で、オハラの一般市民ごと避難船を沈めた。
この衝撃的な行動が第一印象としてあるので、読者は彼の事を奔放で、悪を刈り取る為なら何でもやる男だと認識していたわけである。
しかしながら、この時のサカズキの台詞をよく読むと、それらの印象とは異なる側面が見えて来るはずだ。
彼は「『やるんなら』徹底的にだ」と部下達に語っている。
この言い回しは、そもそも『やる』事に対して消極的では無いと出てこない。
つまり、当時中将だったサカズキは、オハラに対してバスターコールを仕掛けること自体には反対だったと考えられる。
「犠牲」という言葉の選択からもそれが窺えるだろう。
世界政府は事前に市民に対して避難を呼びかけており、赤犬が避難船を吹き飛ばすまでは一般人への人的被害は無かったはずだ。
だが、彼は「今回の犠牲」を無駄にしない為に避難船を沈めたという。
これが意味するのは、赤犬にとって歴史学者の死、オハラに蓄積した知識の喪失、そして市民の暮らしなどは「犠牲」、つまりは尊重すべき物という認識だったということだ。
一端決まった事に対しては、一般市民を殺戮すら厭わず「徹底的に」やる。
だが、現在の秩序を乱しかねないそれを「『やる』かどうか」の判断にはとりわけ慎重というのが、“赤犬”サカズキ元帥という人物なのである。
バーソロミュー・くまが世界政府に従ったのはボニーの為という話 でも少し触れたが、赤犬は民草を単なる「数」として見ているわけではなく、あれはあれで人情味がある人物なの……かもしれない。
藤虎に「あんた……その人達になったことがねェからわかんねェのさ」と非難された時にも言葉に詰まっているしね。